社長メッセージ

持続的成長への回帰を目指し事業構造改革を断行します。

代表取締役 取締役社長
最高経営責任者

西井 孝明

ご挨拶

急速な“デジタル革命”の進展に伴い、味の素グループを取り巻く環境は大きく変化しています。情報流通量の飛躍的な増大によって人々の価値観が変化し、さらにはEコマースやシェアリングエコノミーの普及等で購買スタイルも変化しつつあり、企業のビジネスモデルにも変革の波が押し寄せています。

例えば、コンシューマービジネスにおいては、デジタルシフトの必要性から流通・小売業の統合・再編が進み、われわれの販売チャネルの構造が大きく変化しつつあります。日本や情報先進国でマスブランド間の競争が一層激化し、競争優位性の低い製品から販売が減退していることはその証左です。これからは、圧倒的な技術的優位性やブランド力を磨き続けることで競合に対して“高い参入障壁”を築いた事業だけが生き残るという、シリアスな競争環境を迎えています。

こうした中、当社グループは、「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」の実現に向けたマイルストーンとして、2020年度のグローバル食品企業トップ10クラス入りを目指して、ASV向上を軸に2017-2019(for 2020)中期経営計画(17-19中計)を推進しています。経営基盤の強化や主力事業に紐づけた非財務目標は計画通り進捗しています。一方で、財務目標については、強いブランド力を持つ食品事業や、スペシャリティ事業へのシフトを進めたアミノサイエンス事業は順調に推移しているものの、競争優位性の高くない一部の食品事業が低迷したことにより、達成が困難になりました。併せて、グループ全体の統合目標であるコーポレートブランド価値向上の達成も困難な状況です。

この現状を踏まえ、2020年2月に発表予定の次期中期経営計画では本格的な事業構造改革を断行し、持続的成長への回帰を目指します。具体的には、グローバルトップ3を狙えるカテゴリーへ成長投資を集中し、重点事業の売上高構成比を引き上げます。一方、非重点事業については、投資は必要最低限に抑えます。また、コーポレートサービスや機能型グループ会社については、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるグループ支援力を強化するために、外部との連携を進めます。2019年度は、これらの本格始動に向けた準備期間と位置づけ、構造改革の一部は前倒しで着手します。

今回の統合報告書では、こうした経営環境や成長戦略を説明し、われわれが置かれている状況や、それをどう捉えて経営の舵取りを変えていくかを理解いただきたいと思います。さらに、ASVを通じた持続的成長への道筋を共有させていただきたいと考えています。ご一読いただき、今後とも当社グループをご理解、ご支援いただけますようお願い申し上げます。

2019年7月

代表取締役 取締役社長
最高経営責任者

インタビュー

Q1 中期経営計画の進捗状況と現時点での評価を教えてください。

食品事業の成長鈍化に伴う収益性の低下により2020年度の財務目標の達成は困難となりました。

味の素グループは、17-19中計において、将来ビジョン「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」の実現に向けたマイルストーンとして、2020年度の「グローバル食品企業トップ10クラス」入りを目標に掲げました。そのための具体的な要素は以下の通りです。

グローバル食品企業トップ10クラスの要素
  • グローバルトップ3に入る事業カテゴリーを中核事業とする。

  • グローバルな事業展開

  • 事業利益額1,300億円以上

  • 事業利益率10%以上

  • ROE10%以上

  • 国連の持続可能な開発目標(SDGs)等の国際的な目標に適合したESG目標と実行計画でイニシアティブを発揮する。

17-19中計では、この目標を達成すべく積極的な成長投資や経営基盤強化に注力してきました。しかし、計画2年目となる2018年度は、残念ながら財務面で大きな課題を残す結果となりました。

その主要因は食品事業の低迷で、競争環境の激化によって日本食品の冷凍食品事業やコーヒー事業が大幅に減収減益となったことに加え、北米冷凍食品事業が生産・物流コスト増により減益となったことが影響しました。そのため、全体の連結売上高は前年比101%、事業利益は前年比96%となりました。

中期的には、デジタル革命が進む中、市場の細分化、競争激化が進んだことによる食品事業の成長鈍化の顕在化や、近年成長への先行投資として進めてきたM&A等による資産増加もあり、資産効率が低下していることが財務構造上の課題の一つです。これらの課題への対処には数年を要する見込みであることから、17-19中計で掲げた財務目標および統合目標の達成が困難となりました。

2020年度からスタートする次期中期経営計画では、財務目標を確実に達成し、持続的な成長への回帰を果たしていくため、成長戦略を再構築します。2019年度はその準備の年として、重点事業への選択と集中や構造改革への体制整備等を進めます。

「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」に向けたロードマップ

Q2 次期中期経営計画について基本的な考え方や施策のポイントを教えてください。

「アセットライト化」「デジタルトランスフォーメーション」により
成長戦略を再構築します。

次期中期経営計画では、いわゆる「選択と集中」をより徹底します。成長投資の優先順位を検討するため、外部環境の変化を踏まえた「成長性」「資産効率(ROA)」「ブランド力」「技術優位性」を軸に、各事業を再評価しました。その結果、現時点で「調味料」「アジアン冷凍食品」「Quick Nourishment(加工食品)」「おいしさソリューション(加工用素材)」「ヘルスケア」「電子材料」の6つを重点事業に定めました。

これら重点事業に成長投資を集中することが、中長期にステークホルダーから期待される成長率や効率性を実現するのに最も確実な道筋であると考えています。現在、上記重点事業の売上高構成比は全体の約60%ですが、これを次期中期経営計画期間内に70%に高め、全社で売上高成長率年4%以上を持続できる事業構造の基盤をつくりたいと考えています。

お客様の多様性に基づく市場の細分化が加速する中、データドリブンマーケティングを強化し、製品・サービスの開発スピードを上げ、成長率と効率性をさらに高める必要があります。そこで、次期中期経営計画では、重点事業を中心に当社グループの市場競争力・効率性を高める手段として、DXを強力に推進します。

お客様のニーズに応える製品・サービスをタイムリーに提供していくためには、外部と結んだビッグデータの解析を基に市場を細分化し、越境ECを含むECサイトやSNSを販売に活用する等、デジタル技術によって企業とお客様との“距離”を縮めていくことが重要です。また、機動的でスピーディーな研究開発、製品・サービス開発体制が不可欠です。そこで、2019年4月に当社のR&D体制を再編しました。新たな体制の下、開発テーマに合わせて柔軟に人財や設備を配分し、顧客起点で事業化を促進します。

さらには、多品種化に対応する自動化された効率的な生産設備や、小回りの効く柔軟なサプライチェーンの構築も欠かせませんし、DXの推進を通じたビジネスプロセス改革も必要です。当社グループは、このような変革を進め、近い将来、多くの「スモールマス」を開拓するだけでなく、その中から成長性ある製品・サービスを発掘し、より収益性の高い「ミドルマス」の事業へと発展させていく、そんな新しい事業開発モデルを目指します。

次期中期経営計画では、このように重点事業への集中とDXによって成長を加速させる一方、非重点事業については必要最小限の維持投資にとどめ、場合によっては縮小、売却も進めます。さらにはグループ現預金の還流や政策保有株式の売却等のリソースアロケーションも推進します。これら「アセットライト化」の推進が、次期中期経営計画のもう一つの大きな柱です。アセットライト化については、すでに具体的な施策に関する検討を進めています。その一部は2019年度から前倒しで着手し、2021年度までの3年間で約1,000億円の資産圧縮を実施する計画です。

次期中期経営計画に向けたロードマップ

Q3 アセットライト化がどのように将来の事業成長につながるのでしょうか。株主還元への影響はありませんか。

アセットライト化と同時に成長投資の重点化を行い、事業成長と安定した株主還元を実現していきます。

当社グループの推進するアセットライト化は、資本効率の向上を目的とした資産圧縮だけを意味するものではありません。当社グループの稼ぐ力、営業キャッシュ・フローは、アセットライト化を進めた上で、手堅く見積もって3カ年で3,500億円と見込んでいます。重点事業へ設備投資を集中することで、新たなDX投資を合わせた設備投資額を約2,200億円でコントロールし、株主還元については、総還元性向50%超、単年度配当性向30%超という方針に沿って3年間で1,000億円強を実現していきます。なお、非連続な成長のためのM&Aについては、ネットD/Eレシオ50%レベルの借入金をベースに実施する予定ですが、アセットライト化により創出したキャッシュで補完することも併せてバランスシートの健全性を維持します。

Q4 マクロ環境の変化等の潜在リスクに対する考えをお聞かせください。

よりスピーディーな判断と対応に努め、リスクの最小化を図ります。

為替や金利の急激な変動、進出国における租税制度の改正、新興国における財政収支悪化等、マクロ環境の変化に起因するリスクは短期的に読み切れない場合もあり、いつ発生してもおかしくありません。加えて、異業種参入を含む多数の競合企業の出現や各種のコスト上昇は益々激しさを増すと考えています。このような潜在リスクに対し、マクロ環境のモニタリングの強化、各種リスク要因の適時の分析と対応、適度なリスク分散を継続実施します。それとともに、よりスピーディーな判断と対応に努め、われわれにしかできないスペシャリティへの集中とDXを取り入れた生産性向上を加速させることで、経営および事業リスクの最小化を図ります。

Q5 成長戦略は、非財務目標やマテリアリティとどのように関係しているのですか。

財務目標と非財務目標は不可分なものであり当社グループの社会的使命を果たすためにASVによる価値共創を推進していきます。

味の素グループの社会的使命は、事業活動を通じて「健康なこころとからだ」「食資源」「地球持続性」という3つの社会課題の解決に貢献することです。3カ年ごとに策定する中期経営計画は、事業活動を通じて社会的な価値と企業としての経済的な価値を同時に創出し、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現していく道筋を表しています。この価値創出の取り組みをASVとしてグループ内のみならず社会との共有を図っています。

E、S、Gに関する非財務目標や、価値創造能力に実質的な影響を及ぼすマテリアリティは、常にアップデートしています。これまでに温室効果ガスの削減やフードロスの削減等の目標を設定してきましたが、昨年、廃棄物の3R(リデュース・リユース・リサイクル)に関連する具体的な目標として「2030年度のプラスチック廃棄物ゼロ」を目指すことを加えました。

非財務目標の組み入れはもとより、グローバル食品企業としてSDGsの達成を含めサステナブルな社会づくりをリードしていくことも重要な責務だと考えています。世界約400社の消費財メーカーとグローバル小売業が参加する「ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)」では、サステナビリティ分野の様々な活動を展開しています。私は、味の素グループを代表してこのCGFのボードメンバーの一員を務めており、イニシアティブの普及と啓発に携わっています。

また、社会課題の解決に向けたアプローチは地域によって異なります。日本を例に挙げれば、様々な課題の中でもとりわけ深刻なのが少子高齢化に伴う生産人口の減少です。食品業界や小売業界でも、生産、物流、販売等の現場を中心に労働力不足が常態化しています。

こうした社会構造変化に対応していくためには、各企業が業務効率化、生産性向上に取り組むことに加え、業界レベルでのイニシアティブ推進も重要です。2019年4月、食品物流の合理化・効率化を目的に、国内食品メーカー5社の物流機能を集約・統合した新会社を発足させ、共同配送をスタートさせました。物流業界では、慢性的なトラックドライバー不足や環境保全への対応等の課題が深刻化しています。新会社ではこれらの課題解決に向けて、配送合理化による環境負荷低減、人財・設備等経営リソースの有効活用を図り、効率的で持続可能な食品物流体制の構築を目指します。

Q6 成長戦略やASVを支える人財についての考えを聞かせてください。

グループのコアコンピタンスと価値観を共有し、組織をリードできる経営人財を育てていきます。

まず、経営人財についてお答えしますと、経営者の大きな使命はステークホルダーの皆様の期待に応えることにあります。ただし、一口にステークホルダーといっても、投資家・株主、顧客、従業員、近隣住民の方々等、それぞれの立場によって企業に期待する内容は少しずつ異なります。したがって経営人財には、幅広いステークホルダーの声に耳を傾け、異なる要求に対して最大公約数の満足を実現するバランス感覚とコミュニケーション能力が求められます。

そして、経営人財に限らず当社グループの全ての人財にとって重要な価値観が「味の素グループWay」の中にも掲げている「新しい価値の創造」と「開拓者精神」です。当社グループには、アミノ酸の研究・開発・生産から派生した「先端バイオ・ファイン技術」と、それをグローバル顧客や地域社会に適合した事業として進化させていく「マーケティング力と営業力」という2つのコアコンピタンス(中核能力)があります。創業以来、この2つのコアコンピタンスを駆使して、世界各国・地域の食のニーズに応える調味料・加工食品、機能性素材、再生医療の研究開発に欠かせないアミノ酸由来の高性能培地等、社会的価値のある事業を開拓してきました。これらのコアコンピタンスの拠り所となるのが、「新しい価値の創造」と「開拓者精神」を重んじる人財です。当社グループの経営人財は、この価値観とコアコンピタンスをしっかりと意識しながらお客様の課題の変化に適応し、目標に向かって組織をリードしていかなければなりません。

さらに、当社グループでは、今後DXを積極的に推進していきます。したがって、これからはAIやIoT、ロボティクス等の先端技術に関してより高いリテラシーを備えた人財が必要になります。それは単に技術の専門知識があってプログラミング等のスキルを持つということではありません。当社グループの業務生産性を高めたり、ブランド価値を向上させたりするために、技術をどのように活用するべきかを考案できる人財です。今回、DX推進の責任者となるChief Digital Officer(CDO)を新設しましたが、そのリーダーシップのもとに、具体的な戦略を企画・推進できる人財を一定数確保・育成していく方針です。

Q7 最後に、ステークホルダーの皆様へのメッセージをお願いします。

次期中期経営計画の完遂に向けて万全の準備を進め持続的成長への回帰を確実に果たしていきます。

味の素グループは、これからもASVを通じた価値創造を一層加速・進化させることで持続的成長を実現し、世界の人々にとってなくてはならない「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」を目指します。このビジョン達成に向けた道筋を確かなものにするために、2020-2022年度の次期中期経営計画では、思い切った事業構造改革を実行します。そして重要施策を完遂し、財務目標・非財務目標を達成すべく、2019年度から万全の準備を進めてまいります。

具体的な施策については2020年2月に発表する予定ですが、「統合報告書2019」を通じて、まずは計画の基本的な考えをご理解いただき、早期の成長回帰を目指す当社グループの決意を感じていただければ幸いです。