現在、カツオ標識放流調査は、沖縄県与那国島を拠点に実施しています。与那国町漁業協同組合のご協力により、漁協所属の小型曳縄漁船に調査員が乗り込み、日本の最西端、久部良(くぶら)漁港から黒潮本流の大海原に出漁します。日の出とともに出漁し午後に帰港する日帰り操業を1週間から2週間繰り返して、一回の調査で1500~2000尾のカツオに標識を装着します。
標識放流にご協力いただく与那国町漁業協同組合で、組合長と調査の打ち合わせ。
気象状況や漁模様の共有、調査に使用する漁船や出漁時刻の確認を行います。
カツオに装着する標識(タグ)の準備をします。調査では、2種類の標識を使用します。
通常標識(ダートタグ)
通常標識は、一本ごとに固有の番号が印刷された柔軟性のあるプラスチック製で、先端に魚体から抜け落ちないための矢尻が付いています。
船上での作業がスムーズに行えるよう、あらかじめ、魚体に装着するための金属製の鞘針の中に入れて、番号順にセットしておきます。安価(約150円/本)なので、大量に放流することができます。
電子記録標識(アーカイバルタグ)
電子記録標識は、カツオの遊泳行動の詳細が測定記録できるハイテク機器です。遊泳水深、水温、カツオの体温、照度が一定間隔で約1年間記録され、照度にもとづく日出、日没時刻から、日々の位置(緯度経度)が推定できます。
今回の調査では、30秒ごとの記録を行うようにプログラムをセットしました。
高価(約10万円/本)なので、通常標識のように大量に放流することは難しいですが、得られるデータの質の高さ、量の多さは比べものになりません。このような小型の電子記録標識が開発されたのはつい最近のことで、これらを使用した標識放流は最先端の調査研究です。
調査出船
日出の頃、久部良漁港を出漁し、30分ほど沖合の漁場へ。そこはもう、黒潮本流の中。
調査釣獲
カツオの釣獲は、曳縄漁(一本釣り)で行います。疑似餌針を付けた曳縄をあたかも餌の小魚が泳いでいるように曳くと、カツオが食いつきます。掛かったカツオは、痛めないように素早く取り込みます。
体長測定と通常標識装着
カツオを測定台に入れ、直ちに体長を測定し、通常標識を第1または第2背びれの下に打ち込んで装着します。カツオに負担を掛けないよう、これらの作業は10秒ほどで終わらせて、カツオをすぐに海へ放流します。そして、時刻、場所、体長、標識番号を記録します。
電子記録標識の装着
一部の状態の良いカツオには、電子記録標識も装着します。電子記録標識は腹腔内に入れます。
まず、メスで腹を1cmほど切り開き、そこから電子記録標識の本体部分を腹腔内に差し込みます。そして、水温、照度等のセンサーは体外に出ている状態で、標識が抜け落ちないように、生体用ステープラーで開口部を閉じます。これらの作業は15秒ほどで終わらせて、直ちに放流します。
帰港
午後になるとカツオが釣れにくくなるので、久部良漁港に帰ります。
今日一日の調査のデータ整理をして、明日の調査の準備をします。放流したカツオが元気に回遊し、後日再捕されて、貴重な回遊行動の詳細データをもたらしてくれることを祈ります。
後日、標識放流したカツオが回遊していった先でカツオ漁業者等により捕獲(再捕)されると、再捕月日、場所、標識番号、体長等の情報が国際水研に連絡されてくるとともに、標識が回収されてきます。
電子記録標識からは、記録された時刻、遊泳水深、水温、カツオの体温、照度のデータを読み出して、解析することで、カツオの回遊行動に関する貴重な知見が得られます。