プロフィギュアスケーターの羽生結弦さんは、氷上に初めて立ったその時から、長きにわたって挑戦を続けてきました。
数々の高難度の技に試み、成功させ、人々を魅了してきた不世出のスケーター。
そんな羽生さんにとって、「挑戦」とは何だったのか。
聞いてみると、彼は「4回転アクセル、というのは簡単です。でも、怪我などで氷上に立てない期間、その時期を乗り越えることが一番の挑戦でした」と答えます。

一番の挑戦は氷上に立てない期間をどう乗り越えるか

「もちろん4回転アクセルも大変ですし、色々な種類の4回転ジャンプを練習してきました。でも、一番の挑戦だなと思うのは、自分が跳べない怪我の期間を、どうやってプラスに変えていくか。その時期を乗り越えるのが、最大の挑戦だったと思います」
「難しいことへの挑戦って、心の支えみたいなものでもある。『苦しい』ですけど、『達成できる』って自分の心が信じているから、ある意味目指しやすい。ただ、怪我をして滑れなくなると何もできない。『本当にできるようになるのか?』という苦しさが常にある。そのもどかしさを乗り越えるのが、一番の挑戦であり、『戦っている時間』だったなと僕は思っています」
そして、自分の心に打ち勝つことと同じぐらい、“やりきる”ことも、挑戦であったと、羽生さんは話します。
「正直、皆さんはフィギュアスケートの難しさって、あまりわからないと思うんです。4回転を飛ぶ選手も多いですけど、2回転ジャンプですら難しいし、体力も使う。僕も怪我した後、氷上に上がったら、立っているだけでもすごく疲れるんです。だから『滑りきる』ことはすごく大変」
「羽生結弦は簡単に4回転を飛ぶように見えますが、それを『維持し続ける』のは本当に大変で、『そこから進化する』のは、また大変なんですよね。だからノーミスの演技を目指して“やりきる”ことも、そもそも挑戦だったと思いますね」

葛藤を抱えても、表現したい世界のために

ここまで、たくさんの困難に立ち向かい、乗り越えてきた羽生さん。
その挑戦は当然、未来へ向けても続きます。彼が描く、「新しい羽生結弦」とは、どんな姿なのでしょうか。
「とにかく、自分のスケートをちゃんと楽しんでもらえる。そんな活動を、これからも続けたいです。僕の人生は、フィギュアスケートがほぼ9割。だから、表現することが好きですし、楽しい。アスリートであるからこそ出来る表現、技術的な難しさや体力的な挑戦も含めて、常に表現者でありたい。それを自分のスケートで見せていくのが、これからの僕の理想像です」
選手からプロアスリートに転向し、自由になった分、自分でやるべきことの決断も求められます。
自分自身を「プロデュースする立場」になった今、やることは山積みです。
「それこそ、自分の中でも葛藤はありますね。スケートのレベルを向上させるのが一番大事なので、『僕がここまでやる必要あるのかな』って思う部分もある。でも、それをやらないと自分の世界が表現しきれない。だから妥協せずに頑張っていきたい。今は基盤を作っている段階で、一番大変な時だと思うのですが、しっかりやっていきます」

未来、人生を振り返った時に

そして、挑戦の先に思い描く夢、羽生結弦のゴールについて、今はどう考えているのか聞きました。
「プロとして、アイスショー含めて活動し始めたら解るかもしれないですけど、基本的にゴールはないです。僕はもともと、人に見てもらえることが大好き。だから、人が見たいと思うスケートをすることが、僕の中で一番のポイントなんです。だから、それに対して、ゴールはないんですよね」
そして「哲学みたいな話になるかもしれないですけど…」と続けて、こう語ります。
「自分の中で、最終的に『ここがゴールだったのかな?』って人生を振り返った時に思えるような、納得できる形まで自分を追い込み続けたい。僕はやっぱり、自分のスケートに集中してきたからこそ、今があると思う。だから、しっかり自分のこと、自分のスケートを追求していきたいと思います」
羽生結弦の第二章は、やはりどこまでも羽生結弦らしく。
その可能性を無限に広げながら、自分のために、ファンのために、その挑戦は永遠に続いていきます。