コロナウイルスを間近に感じながらも、事前の準備で乗り越える

日本においてプロバスケットボールリーグが誕生して5年目のシーズンが始まっています。昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で、リーグがシーズン途中で中止。今シーズンもコロナ禍で観客の入場が制限されるなど、プロとしての苦境は続きます。富樫勇樹選手もまた、開幕後1ヶ月はリズムに乗れなかったと言います。
徐々に試合勘を取り戻し、リズムを掴み始めたところでリーグは約1ヶ月の中断。2023年におこなわれるワールドカップに向けた予選がスタートするためでした。結果として、同予選は延期となりましたが、当初の予定通りリーグ戦は中断。富樫選手は日本代表候補として強化合宿に参加します。しかし、その最中にチームメイトから新型コロナウイルスの陽性反応者が出てしまいます。強化合宿は中止。富樫選手はPCR検査で陰性でしたが、再開したリーグは厳しいリスタートになると思われました。しかし、一度取り戻したリズムを手放さなかった富樫選手の活躍もあって、チームは見事な勝利をあげます。
「12月2日の試合は、陽性反応が出た選手を抜いて戦う最初の試合でした。チームとしてもこうした状況は起こりうると話していましたし、僕個人としても今シーズンは何が起こるかわからない、全員が揃わず試合をすることもあると想像していたので、気持ちの準備もできていました。その試合の勝利は、言い訳を作らずに、しっかり試合に勝とうと全員で臨んだ結果だと思います」
代表活動によるリーグの中断、チームメイトからの陽性反応。リズムを崩してもおかしくない状況においても、富樫選手は自らのバスケットを気負うことなく、貫いています。そこにはプロとして積み上げてきた7年間の経験があります。
「最近よく思うんです。体重など、ある程度自分の中で目標の数値はありますけど、それ以上にその日の試合に向けた体のバランスが大事なんじゃないかと。僕自身、自分にとってベストな状況を年々見つけられているので、それが今の自分にとって一番大事だと思うようになりました」
どうすれば体がより動くのか。逆に何をすると体が重たくなるのか。「体に力が入るようウェイトトレーニングを取り入れて、ここ数年で力の入れ方が変わってきた手応えを感じるんです。もちろん押し負けることはありますけど、それを押し返す……ただ押し合ったら勝てないですけど、いろんな工夫をしながら自分の中でしっかりとバランス良く動けている時は、身長・体重に関係なくプレーできていると感じますね」。プロとして7年、日々の積み重ねの中で富樫選手は自分の“最適”がわかってきたというのです。

積み重ねてきた日々の成果を大切に、これからも前進し続ける

コロナ禍で様々な制限が課せられる今シーズン。でも、そんな今が富樫選手は、最もコンディションがいいと言います。昨シーズンは試合直後や翌朝に残ることもありましたが、今シーズンはそれがない。「何かを変えたわけではないんです。睡眠時間も変えていないし、食事もこれまで味の素さんと色々な取り組みをして、徐々に変えて、アミノバイタルを摂ることも、今ではそれが普通になってきています。本当にコンディションは今までで一番良い状態です」。7年間かけて取り組んできたことが、皮肉にも制限の多い今シーズンに、最も花開いたというわけです。
富樫選手は、今夏に行われる予定の東京大会が一番大きな目標であり、モチベーションだと言います。「その後の自分の目標が全然見えていないほどです。だからこそ、まずは東京に向けて、今シーズンのリーグでしっかり結果を残したい。今はそれだけかもしれません」。とはいえ、富樫選手自身が日本代表のメンバーに決まったわけではありません。ただ、出られるならば、「単に出るだけではなく、結果を残したい気持ちはあります。リーグで戦っているよりもさらに大きい選手、身長や体重で差のある選手たちと、どう戦っていくのかを考えていきたい」。
2019年、中国でおこなわれたワールドカップに、富樫選手は出場できませんでした。直前に怪我をしたからです。ワールドカップには高校時代の同級生がベネズエラ代表として出場していました。「彼とは高校時代に『今後、プロとして一緒のチームでプレーするか、対戦相手としてでも、お互いの国の代表として試合できたらいいね』って話していたんです。ワールドカップでは日本とベネズエラの対戦はなかったですけど、いつか世界の舞台で同級生とそんな対戦ができたらいいなって思いますね」。
身長の高さが有利となる世界で、自らの身長に言い訳をせず、いくつもの挑戦をしてきた富樫選手だからこそ見られる未来。これからも富樫選手は、自分の道だけをしっかりと見て、文字どおり“大きな”壁に挑み続けます。