アミノ酸大百科

生活で役立つアミノ酸生活で役立つアミノ酸

高齢者とアミノ酸

加齢に伴う筋肉の減少や免疫力の低下を、アミノ酸によって回復

高齢者とアミノ酸

アミノ酸で減り続ける筋肉量を維持する

サルコペニアの予防や改善にアミノ酸

高齢になると、誰でも筋肉の減少や筋力の衰えを自覚するようになり、「年だから」とあきらめてしまいがちです。高齢期におけるこの筋肉の減少は、「サルコペニア」と呼ばれ、外出する頻度が低くなったり、転倒や骨折のリスクが増えることなどにつながりやすく、自立して日常生活を送ることが難しくなる可能性が高くなってしまいます。 サルコペニアは、QOL(クオリティオブライフ;生活の質を意味する)の低下を防ぐという点からも、対策が重要視されています。

サルコペニアの予防や改善には、運動と栄養の効果的な組み合わせが欠かせません。 運動は、一人ひとりの筋力や運動機能の状態に応じた、安全かつ効果的な筋力トレーニングの実施が重要です。 栄養面では特に肉、魚、卵や牛乳などの良質のたんぱく質を豊富に含む動物性たんぱく質食品の積極的な摂取が厚生労働省などからも推奨されています。

動物性たんぱく質食品と同様に、栄養面からサルコペニア対策として注目されているのが、アミノ酸の利用です。 アミノ酸は筋肉のたんぱく質を構成している栄養成分ですが、その中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA)は筋肉に多く含まれている成分であり、筋たんぱく質を作り出しやすく壊れにくくする働きがあることが知られています。 このため最近は、BCAAを含む必須アミノ酸(体内で作り出せないので、食事から摂る必要があるアミノ酸)の摂取が、サルコペニアを防ぐ上で有用であることが明らかになっています。 高齢者が、乳清(牛乳からチーズなどを製造する際に固まった部分を除いた残りの液体のこと)のたんぱく質、またはBCAAの一つであるロイシンを高配合した必須アミノ酸9種類の組み合わせのいずれかを摂取すると、後者の方が筋たんぱく質を作り出す作用が大きかったことが確認されています。 また、軽い運動と共にこのロイシン高配合必須アミノ酸を継続的に摂取すると、筋肉量と筋力が向上し、歩行するスピードが速くなるなど運動能力においても改善が確認されました。

ロイシンはBCAAの中でも、特に筋たんぱく質を作り出しやすくする機能が強く、加齢に伴ってその必要量がだんだん高まることも指摘されている重要なアミノ酸です。乳製品、肉、魚、卵などのBCAAが多く、アミノ酸バランスも良い良質なたんぱく質源となる食品を普段から積極的に摂るように心がけるとともに、ロイシンなどのカラダが特に必要とする栄養成分も効率的に利用することをおすすめします。
高齢者がロイシン高配合必須アミノ酸を長期間摂取したときの筋肉量、筋力、歩行速度の変化

筋肉量の変化

筋力の変化歩行速度の変化

Bφrsheim et al. Clinical Nutr., 27, 189-195, 2008

アミノ酸の安全性

アミノ酸はたんぱく質を構成している成分で、長年に渡りわたしたちの生活において幅広く活用されている栄養成分であり、安心して摂取することができます。アミノ酸だけを摂取した場合、血糖値に影響を与えることはほとんどなく、また健康な大人であれば体内で代謝された後に尿中に排泄されるので、安全性も高いといえます。(※食事療法や治療を受けられている方は必ず医師・管理栄養士にご相談の上、指示に従ってください。)

アミノ酸で免疫力を回復する

シスチン・テアニンは免疫力回復に効果あり

高齢になると免疫力が低下し、カゼなどをひきやすくなったり、症状が重くなったりすることが知られています。また医療現場では、免疫力が低下した高齢者にインフルエンザワクチンを接種しても、十分な効果が得られないことが問題視されています。
医療施設に入所されている高齢者を対象として、インフルエンザワクチン接種時におけるシスチン・テアニンの免疫力回復効果を調べました。 その結果、インフルエンザワクチンを接種した後、シスチン・テアニンを摂取しなかったグループでは感染予防に有効な抗体価獲得の効果があまり得られなかったのに対し、シスチン・テアニンを摂取したグループでは十分な量の抗体が得られた人の割合が増加しました。このことから、加齢に伴う免疫力(抗体をつくる力)の低下が、アミノ酸によって回復されていると考えられます。
より低栄養状態の高齢者におけるインフルエンザウィルス感染防御に有効な抗体価を獲得した高齢者の割合

血中の総タンパク質値が平均値未満の高齢者血中のヘモグロビン値が平均値未満の高齢者

Miyagawa et al., Geriatr. Gerontol. lnt., 8, 243-250, 2008

アミノ酸で認知機能維持をサポート

認知機能とアミノ酸

日本では、超高齢社会を迎え、加齢に伴う認知機能の低下が大きな社会問題となっています。認知機能の維持・向上は生活の質の維持・向上に役立つだけでなく、医療や介護といった社会全体の負荷軽減の観点からも重要です。
血液中のアミノ酸濃度バランスと認知機能低下の関連性も明らかになっており、アミノ酸を摂り入れることが認知機能の維持・向上に繋がります。

認知機能低下の可能性を評価する「アミノインデックス技術」

認知症発症の危険因子の約35%が生活習慣などの修正可能な因子であるという報告もあり、その発症リスクは生活習慣と密接に関係しています。また、バランスの良い食事と運動を継続することで、認知機能が維持されることなども報告されており、認知症発症前にリスクを発見し生活習慣の改善を行うことが重要です。

グラフ

健康な方では恒常性が保たれている血液中のアミノ酸濃度バランスが、様々な疾患になると特徴的な変動を示すことを応用し、現在の健康状態や将来の病気のリスクを明らかにする「アミノインデックス技術」により、現在の認知機能が低下している可能性を評価することができます。

認知機能の維持・向上をサポートする7種必須アミノ酸

7種必須アミノ酸(ロイシン、フェニルアラニン、リジン、イソロイシン、ヒスチジン、バリン、トリプトファン)には、加齢とともに低下する認知機能の一部である注意力と、認知的柔軟性を維持し、前向きな気持ちをサポートする機能が確認されています。

TMT-B

7種必須アミノ酸の摂取が健康な中高年の認知機能と精神面の健康に及ぼす影響を検討するため、12週間にわたり、プラセボ対照二重盲検比較試験を実施しました。その結果、認知機能検査の一つであるTMT-BM(紙に記載された1〜13の数字と「あ」から「し」のひらがなを交互に結び、作業完了までの所要時間を測るテスト)で、アミノ酸6g群は作業完了時間が短くなっていることから、認知機能の一部である注意力、認知的柔軟性が改善されることが明らかになりました。

WHO-5-J

Suzuki H, et al., Front. Nutr. 7, 586166, 2020
WHO-5-J精神的健康状態表でも、アミノ酸6g群でスコアが改善されることが分かりました。アミノ酸6g群では前向きな気持ちが向上し、精神面の健康に貢献することが確認されたのです。