


- 本木
- 2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。多くの人・企業が被災した一方、多くの企業が被災者にさまざまな支援をしています。自らも巻き込まれた災害において何をするか、企業市民としての姿勢や行動が問われたケースではないでしょうか。
- 伊藤
- このたびの東日本大震災により被災されました皆様に、心よりお見舞い申し上げます。味の素グループは大規模地震に対応したBCP(事業継続計画)に沿って、地震の発生直後、冷静に対応することができました。何よりもまず状況を把握し、従業員の安否確認を行いました。幸いにも、従業員は全員無事でしたが、ご家族には被災された方もおり、非常に残念です。
地震発生後直ちに行ったのは、企業市民としての責任を果たすこと、すなわち、被災された方々への緊急支援として、「食」を用意することでした。自社商品の中から、おかゆなどすぐに食べられるものを集め、物流が混乱している中で、独自に輸送手段を用意して被災地に提供しました。次に、メーカーとして重要な製品の供給責任を果たすべく、サプライチェーンの復旧に取り組みました。味の素グループの工場には大きな被害がありませんでしたが、基幹となる味の素(株)川崎事業所内の物流センターの倉庫内の商品が落下したり荷崩れするなどの被害がでてしまったことで、商品の出荷が滞り、お取引先様のご注文に十分お応えすることができませんでした。
支援物資の供給は微力ながら貢献できたと考えています。一方で、メーカーとして、製品の安定供給という責任が果たせず、これは改善が必要であると強く認識しています。
- 本木
- 今、被災地では、復興に向かう時期にきているといえます。今後、被災地に対して、どのような支援を考えていらっしゃいますか。
- 伊藤
- 味の素(株)はこのたびの震災による影響をふまえ、震災後の重要施策の柱を3つに定め、具現化していきます。そのひとつが、被災地特有のニーズである“食事の栄養アンバランス是正”をサポートする“被災地支援”です。これを、3年間を目処に行っていきます。避難所や仮設住宅では、買い物が不便だったり支援物資に偏りがあったりして、栄養バランスが悪くなりがちです。おにぎりやパンを中心とした食事だと、たんぱく質が不足すると言われています。そのような状況で、いかに健康で栄養バランスのとれた食生活ができるようにするか考えなければなりません。味の素(株)には、食に関する知見の蓄積がありますので、それを活かし、ニーズにあった丁寧な支援をしていきます。そのためには、現地に従業員を専任で派遣し、現地の行政、NGO・NPO・栄養士会などとの連絡窓口とし、協力体制を作っていきます。地域の栄養士会と連携し、“健康で栄養バランスのとれた食生活”のための情報提供を、メニューレシピの提供や健康・栄養セミナーの実施を通じて推進していきます。その他、避難所から仮設住宅での生活をスタートするにあたり、調味料などの商品提供を通じた調理のサポートや、従業員のボランティア参画の側面支援も行います。
実際に被災地を訪れ、被災した従業員をはじめ、さまざまな方々と話をさせていただきました。その中で改めて感じたのは、「食」の重要さです。食は電気や通信などに次ぐ第6のライフラインといわれることがありますが、私は「食」が第1だと思います。人が生きていくために最も基本的なことは食べることです。移動できなくても、電気がなくても、食べなければならない。改めて「食」の大切さと、生きるために必要な製品の供給メーカーとしての責務を認識しました。
- 本木
- 今夏、電力の大口需要家に対して政府から15%の削減が求められていますが、節電対策はいかがでしょうか。
- 伊藤
- 先ほどお話しした震災後の重要施策の2つ目が、電力エネルギーを適切かつ賢く使用することを基本とする“スマート・エネルギー施策”です。使用電力のピーク時15%削減は進めていきます。生産部門の休日・夜間へのシフトや既存設備の効率向上に加え、新規の自家発電設備導入など、あらゆる箇所で節電に取り組んでいます。現在でも、味の素(株)川崎事業所の自家発電では、地震当日から発電量の約半分を東京電力へ提供しています。それだけでなく、夏季長期休業の実施や夏季始業終業時刻の1時間前倒し、電灯の間引き、エレベーターの一部休止などオフィス環境での工夫も含め、働き方の見直しも行っています。
- 本木
- 震災の経験を踏まえ、事業の中で改善していかなければならないところも見えてきたのではないでしょうか。
- 伊藤
- 味の素(株)にとって、製品の安定供給は非常に重要なことだと痛感しており、出来得る限りお客様にご迷惑をおかけしないようにしなければなりません。顧客視点に立った、安定供給のためにバリューチェーンを強化していく、これが震災後の重要施策の3つ目です。効率を重視すること自体は変わりませんが、安定供給なくして効率化はあり得ません。“安定供給のための分散化・補完体制”の視点を入れていきます。原料調達から生産拠点、物流という流れのあらゆる点で、従来よりも幅広いリスクを検討し、物流の複線化や拠点の分散化、生産や本社機能を補完できるような体制づくりを行っていきます。これは地震に限らず、あらゆる面でリスク管理として必要なことです。
- 私自身、被災地に行って感じたのは、支援物資をいかに被災者の手元に届けるかという問題です。平時は、製造−物流−販売のそれぞれがうまく連携することができますが、有事では、被災者の手に届けるという、最後の一手が上手く回っていないようでした。物資を、受け手が扱いやすいようにある程度の単位に分けて配るというのは、非常に大変な仕事です。さまざまなニーズをもった被災者に必要な物資が渡るよう、そこはもっと我々企業側がプロとして支援するべきだったかもしれません。これは消費物資の事業に関わるすべての業界の課題ともいえます。

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